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願わくば、この時が続きますよう。 永遠とは言わない。 せめて、 可能な限り長く、長く。 祈りに近い望みを抱く朝 里中を騒がせた、カカシの結婚発言がいまだ冷めやらぬある日。 さすがに1週間の休暇はもらえなかったが、の事情を知っていた火影から 2日ならとカカシはつかぬ間の休日を与えられた。 どうすごすか、なーんてのは初めから決まってる。 「とずーっとイチャイチャするんだもーん。」 もう、ずっと家にいてなにをするにも離さないようにしよう。 追いかけても、すくっても するりと指の間からこぼれ落ちていく。 信用がないってコトじゃあない が悪いってワケはちっともなくて、 ただオレが過剰なほどにこわがってるってだけの話。 不安が、消えないんだ。 がオレをみてくれてるってわかったらなおさら。 うとうとと。 任務で起きる必要に迫られない朝のまどろみを味わいながら、 オレは感触を確かめたくて隣に手を伸ばした。 ―ぽすん ジョーダンでしょ、ってくらいマヌケな音が寝室に響く。 「・・・あーあ。」 ぬくもりも残さないソコ。 ってことは、だいぶ前に起きてったな。 大丈夫だって、頭では理屈はわかっていながらもやっぱり心のすみの方が一瞬チクッとした。 カカシは普段の自分とは違って名残惜しむことなく布団と決別し、 迷うことなくの気配の方へと向かっていった。 ・・・掃除ねぇ。 「はオレとの朝より掃除のほーが大事なの?」 お決まりのように気配を消して後ろから抱きすくめると、もいつものように驚く。 「ッわ!!・・・カカシさん〜〜おはようございます。」 は顔を見ようと、首にまわるオレの腕に手をかけるけどそうはいかない。 「カカシさん?」 頑なな態度に頭にハテナを浮かべていると、耳元に直接響く声は 普段ののんびりとしたものとはまったく違うもので。 「・・・昨日」 「はい?」 「立つのがツライくらいには抱いたハズなんだけど?」 冷たくて、とげのある声が私を責める。 だけど隠したその奥が怯えている気がした。 「知らなかった、まーだ足りなかったんだねぇ。今夜はもっと頑張るよ、オレ。」 「・・・カカシさん。」 口調はいつものものだが、やっぱり様子がおかしい。 今度こそ、私は絡まる腕を外し正面を向いた。 ・・・・怒ってる。 だけど、おんなじくらい覗いた瞳はやっぱり不安に揺れていて。 乗り越えなきゃいけない。 少し、大げさかもしれないけれど私とカカシさんに常に訪れるこの朝を日常に戻さなくては。 きっと、私たちはいつまでたっても先に進めない。 どうすれば、カカシさんを安心させてあげられるだろうか。 もう私はどこにも行かない。 二度もそばから離れてしまった私だけど。 今度こそ それ以外、その場では方法が見つからなくて私はカカシを抱きしめてそっと呟いた。 「少し・・・話をしませんか。」 窓を開けて、入りこむわずかな風を肌に感じながら 向き合うのはお互いどこか気詰まりに感じて、隣り合ってソファーに座った。 「昔の話をしてもいいですか。あと向こうに戻っていた時のことも、少し。」 は言いにくそうに、だけど意を決して己の過去を話そうとしていた。 今まで一度も触れたことのないその部分に。 オレは喉が渇いているワケでもないのに、ごくりと唾を飲み込んだ。 「私の両親はそれこそどこにでもいるような普通の人でした。」 「うん。」 「中・高は女子だけの、しかも全寮制だったんですけど。」 いきなり始まった、イマイチ理解できない言葉の羅列に 淡々と話しを先に進めようとするに割って入る。 「え・・・っと、ちょ、待って?わかんない言葉がいっぱいなんだけど。」 「あ、そっか。中学とか高校はこの世界にはない概念でしたね。」 が言うには、適齢期になった子どもはアカデミーみたいな学校に 入るのが義務付けられており、その中でも親元を離れて女しかいないところに通うことは その世界では、めずらしいことなのだという。 そうするように強く願ったのがの両親なのだということも。 「親御さんは、どうしてをその学校に入れたがったの?」 オレのその問いにきっと初めから答えを用意していたのだろうが、 それでも僅かな間を置き、十分に息を吸ってからなんの迷いもなくははっきりとその言葉を口にした。 「大して私に興味がないからですよ。」 学校には、定期的に長期の休みもありましたし。 12歳をすぎてから親元を離れて、大学も、仕事を始めてからは1人で暮してましたけど。 年に1度か2度ほどでした。両親に逢うのは。 「両親は、私が産まれた時点で人類の役目を終えたと思ったようです。」 そう言うの表情は、仕方がないと諦めているみたいでわりとさっぱりしている。 「なにがいいたいんだって、顔してますね。」 「そりゃー・・・ね。ちょっと話がみえない。」 戦争が身近にないの世界じゃ、それが恵まれないとか可哀相の部類に入るんだろうけど 正直、忍の世界じゃ 親が死んでるヤツも、親に捨てられたやつだっているし。 もっとひどいと、親兄弟に命狙われてたりとか本気で殺しあうヤツらだっている。 だけど。 今そんなこの世界での当たり前は、オレとにはどうでもいい事。 生きてきた世界が違うならそれは比べたってしかたのないコト。 それに感じ方1つとったって、みんな違う。誰がどの順番で可哀相か、なんて考えるのは馬鹿げてる。 「うん、それで?」 「私、ここに来る前までは結構自分て可哀相なんだろうなーって思ってたんですけど。」 ここの、木の葉の方たちは私がいた世界の基準なんてちっともあてはまらなかった。 家族を目の前で殺されてしまったり、 産まれたときから家族を知らなかったり、 里のために死んでいった人や 親が自らの手で死んだのを見た人もいる。 誰かのために死んで、その人のお陰で生きてる人もいる。 「この世界は、ずっと即物的で命や心のやりとりが多い分、それに皆すごく敏感だなって。忍の方は特に。」 「んー・・・ま、職業柄大体が自然とそーなっちゃうんだろうね。」 「私、極力なにもないようにないようにって生きてきました。 感じなくても、思わなくても流されてさえすれば当たり前に毎日がめぐっていくから。」 笑ってても、悲しんでてもどこかそれを冷めて見ている自分がもう1人いて 友ダチが好きな人の話してる時も、相槌うちながらだからなんなの?って でもここは一緒に悲しむべきところだろうな、・・・とか。 スキってことがいまいちピンとこなかった。 自分を犠牲にしてまで、その人のためにとか 自分のためだけにその人の心を手に入れたいなんて、思ったこともなかったし そう思える日がくるとも思わなかったんです。 だから私、ホームシックってかかったことなくて。 家が恋しいとか、家族に会いたいとか・・・心から誰かに逢いたいってあんまり思ったことなくて。 逢いたいのに、逢えないって。そういう気持ちってどんななんだろうって。 今回、やっとわかりました。 本当の私が居るべき世界はここじゃないのに。 初めは自分の感情に戸惑って、よくわからなくて ここを飛び出して皆さんを困らせたこともありましたけど。 あの時は、ここでの暮しを忘れようってことでいっぱいだったからそんなこと考える余裕もなかったんですけど。 木の葉の里がいつの間にか、私のお家みたいになってて そこには当たり前にムサシくんがいて、カカシさんも他人なのに家族みたいで。 「1年・・・たった1年ですよ?」 長く1人で一方的に話した後、少し困ったように笑う。 「四代目様に、どっちで生きてくか決めろって言われて。それってもう二度と会えない人がいるってことで。 それでも、私はカカシさんを選びたかったんです。カカシさんとの1年を信じたかった。」 今まで人生のほとんどを生きてきた世界を捨ててでも。 縋りついてでも、木の葉の里で暮したいと願わずにはいられなかった。 「カカシさんを待たせた日数に比べれば、私はたったの一週間でしたけど。 もう二度とこの世界に来ることはないんだなって思っても、早くカカシさんのところに戻りたかった。」 「うん、オレもに死ぬほど逢いたかったよ。」 思わず口にすると、今度はのそのまっすぐな瞳から今にも涙がこぼれそうになった。 「自分勝手に飛び出した、ムツキさんのところでお世話になってたあの頃とは全然違う。 戻れなかったらって、思ったら怖くて怖くて。見上げた月は、空は、カカシさんと繋がってないんだって。 この世界にカカシさんはいないんだって、そう思ったらこの世の終わりみたいに寂しくなって。」 無造作に置いていたオレの手に、の手がかさなる。 少し、震えていた。 「私にはカカシさんの隣しかいたいところはないのに。」 オレの単なる独占欲が歪んだモノから始まっただけなのに。 にこんな話をしてもらうつもりじゃなくて、 またを失うんじゃないかって不安をやわらげるつもりで 明日くらいはって約束とりつけられたら上々って程度だったハズが。 やっぱりとは、オレがおもいもよらない方向に進んでく。 だけど、オレが思い描いたちんけな結果よりも数倍も事態は明るい未来に向かっているようで。 オレは愛しさがうんと増した、自分よりもはるかに小さな存在を抱きしめた。 「オレだって、の隣しかいらない。」 「だから、ね?カカシさん。 突然いなくなったのはごめんなさい。カカシさんが不安に感じてしまう原因をつくったのは確かです。 だけど・・・でも、もう朝を怖がるのは終わりにしましょう。 私にはもうカカシさんのところしか帰る場所も、帰りたい場所もないんです。 出かけるときは待っててください。私がカカシさんを待ってるように。 行ってきますって言ったらいってらっしゃいって言ってください。 ただいまって言ったらおかえりって。」 任務に行くカカシさんに、私が言っていたように。 「そうやって、朝をむかえて1日を繰り返して。私とカカシさんで一緒にすごした日々を積み重ねていって、 心を通わせる回数を増やしていくんです。どちらかが、先に死んでしまうまで。」 たぶん、私を残してカカシさんは逝ってしまうんでしょうけど。 とは、いいようのない寂しさを感じただけで決して口にはしなかった。 しなくても、カカシさんはきっと覚悟していることだとも思ったから。 オレはの言葉が終わるのを待って、おでこをコツンと合わせてみる。 「いーや。死んだって、かわらなーいよ。」 オレがを想う気持ちも、がオレを想ってくれる事も。 いつだって、はオレの求めるものを知っているみたいに そこになかった欠片を、ちょうどの大きさであてはめていく。 たぶん、オレとの持っているものを合わせてみたら 驚くぐらいぴったりと一緒だったんだ。 それにしても、 はオレに心を教えてくれるとばかり思っていたけど、互いが心を育ててたんだな。 無条件にあったかさを感じてたけどそれは木の葉にきてから変わっていったってことだったんだよね。 ま、道理でってば鈍感なワケだよ。 ゲンマも、イルカ先生にも無防備だもんねぇ。 ・・・・奥さんになってもあんま変わらなかったりして。 カカシが先を案じて、小さくため息をつくとそれを心配に思ったが 腕の中から顔を上げた。 「どうかしました?」 「なんでもなーいよ。」 オレの先を見越した嫉妬心なんて、さすがに言えるわけもなくて 軽いキスでその場はなんとなく誤魔化した。 「そういえば、私がいない間ってご飯とかどうしてたんですか?」 ここでようやく今までどこにいたのか、視界にムサシくんの姿が映った。 「どーもこーも、お前がいない間のこいつはそりゃあ大変だったさ。」 「・・・・・ムサシ。」 ちらり、とカカシの様子を見上げたが今日は遠慮なく言うつもりらしく ムサシは、がいない間の様子を逐一報告し始めた。 「メシはろくに食わんわ、休暇返上で任務こなそうとするわ。あげくの果てにはの名前だすと機嫌最悪でな。」 「そーんなことないよ。」 「チャクラが尽きるギリギリまであの演習場でお前が現れやしないかって、口寄せしだすし。」 「えーだぁってさ。」 「テンゾウまで登場した時にはさすがにこっちも、・・・・・あ」 「ムサシクーンv」 そこでようやく自分の発言がマズイと気がつくムサシだったが、時すでに遅し。 カカシの笑みは悪魔もびっくりなほどにどす黒く輝いている。 テンゾウの名前を出すのはさすがに、マズかったか。 「・・・・・!今からでも考え直せ!カカシじゃなくてゲンマ・・・じゃダメだ。イルカにしろ、イルカに!!」 「なーに言ってんの。さっきのの話聞いてなかったでしょ?」 どんどん鋭くなっていくカカシの殺気に、ムサシは冷や汗をかきながら 必死に話題を軌道修正する。 「あ、あとはお前、に膝枕して欲しい、とかほざいてたじゃないか!」 「ムサシだって、に頭なでられたいーとか言ってたじゃないの。」 「言ってないぞ!そんなこと!!」 「ふーん。ま、オレは言ったケドねぇ。」 ・・・・やっぱり今日も、ムサシくんが押されてるみたいだけど。 なんだかこんなのも懐かしいな、なんて思ったら気持ちがほっとした。 少し落ち着きを取り戻した様子で、改めて私がいなかった時のことを思い出しているようだ。 「それからねぇ、の隣にいないのは落ち着かないってさ。」 「なっ、・・・・しょうがないだろう。1年近くカカシがいない間、護ってきたんだ。 今さらが一緒にいないほうが、俺にしたら不自然だ。」 「ま、それはオレもムサシに賛成ー。」 「そ・・・うですか、ね?」 「当たり前でしょー。はもう、オレたちの家族なんだからv」 「当たり前だ。はもう俺らの家族みたいなもんじゃないか。」 2人同時のその言葉に、 おかしくて笑って誤魔化したけど、涙がでそうなくらい嬉しかった。 一通り、ムサシくんからの話を聞き終えると(半分愚痴みたいなもんだったけど・・・) カカシさんがこちらを向いて、首をかしげて言った。 「ね、。オレのお願い1コ聞いてくれる?」 朝、目を覚ますと腕の中には約束通りがいた。 出来るならここからもう1度、やり直しがしたい。 分かり合ったとしても、やっぱり目覚めがどこか怖くて 腕の中からが消えていく感覚が記憶にいつまでも残り続けるから。 朝は、わかっててもいつも泣きそうになる。 が、この世界にいない時があったことに。 そしてが戻ってきたのに相変わらず腕の中に存在がなかったことに。 「おはよ。」 今度こそ 「おはようございます。」 寝起きの少しかすれた声で、 やわらかく笑ってオレを見上げてそう言った。 あぁ、これでやっと信じられる。 朝日を浴びる自分を。 「そういえば、四代目様が言っていたことを思い出しました。」 「ん?先生・・・・なんて。」 「カカシに幸せになって欲しいって、1人ぼっちにはしておけないって。」 「・・・あはは、オレもいい歳なんだけどな。」 「カカシさんと出逢ったのは偶然ですけど。 それで、お互いにスキになるなんて奇跡みたいな話ですけど。 私、カカシさんと一緒に幸せになるために木の葉に来たんです。 自分の居場所を見つけるために、 心の隙間を埋めるために カカシさんに逢いに、来ました。」 得体の知れなかった、オレの心に1滴ずつ落ちてざわざわと心を揺らす雫のようなものが 今ピタリ、と止んだ。 あぁ、オレはこの子に逢うために今までいろんな命を犠牲にしても生きてきたのかもしれない なんて、ガラにもないことを思ってしまったのは内緒。 「朝さぁ、オレいっつも思うんだよね。」 「なにをです?」 「マジで忍者やめたいなーって」 「えぇ??!!だっ駄目ですよ、そんなの!っていうか、どうしていきなりそんな話になるんですか!」 「いやー一緒に迎える朝がこーんなにイイものだって知らなかったからさ?忍じゃなくなればも諦めることがだーいぶ減るのよ?」 「・・・ません。」 「は?」 「いりません、そんなの!」 なーんでが怒るかねぇ。 でも、ちょっと嬉しい。 とすごすうちに当たり前になっていた日常が帰ってきた気がするから。 「言うねぇ。ま、将来オレの奥さんになるだけあるよねー。」 「べっ、別にそんなつもりじゃ///」 「あ、オレからひとつ提案〜。」 「なんです?」 カカシさんが私の耳元に手を添えながらささやく。 「朝に一発、子作りの練習するってのはどう?」 「却下!!!!!!!」 離れようとした距離を、そうはいかないのv と、今までで1番なんじゃないかってくらいの意地悪な顔でさらに縮めて 「じゃあその体力作りとして今から運動しよっかv」 「結局?!しませんから!!って、カカシさんどこ触って・・・¥$&☆●※??!」 「んー・・・どこって、そりゃあ」 具体的に言葉にしようとするカカシの口を瞬時にふさぐ。 「い、いい!言わなくっていいですから!・・・っ、んぁ」 ぼやける視界の端でなんとか捕らえたカカシさんの瞳はまっすぐで 触れられた手のひらは、燃えるように熱かった。 ただ、その唇の端は思った通り歪んでいたけど。 「んー・・・やっぱやめとく?ね、サーンvv」 その後オレがと残りの休日をどう使ったかは、ムサシにもナーイショv ヒロインの過去話を軸にしてみました。 あんまり設定しないつもりが、話書いてるうちにどんどん深みにはまってしまい・・・(汗 大体のあらすじに肉付けしてったら、お2人さんどんどんシリアスの方へ進んでいくんですもの。 何度そっち行っちゃダメだってばよ!!!って、心で叫んだことかww そして結局はぬるいエロに走る(ぐはぁ! これで区切りがついたので、今度こそ以後は単発っぽく思いつく限りのネタでやっていきたいと思います。 |