「好きなら好きってはっきり言えばいーデショ?」

―――そしたら困るのはアンタでしょうがっ!!



〜義理の友と逆の本命〜




冷たい風が肌を刺し、鉛のような曇天も抜けるような晴天も感覚的な寒さの助長にしかならないような今は如月。

しかし屋外の痛いほどに澄みきった空気とは裏腹に、今居るこの上忍待機所は暖房の熱と換気のなされない空間のせいで濁りきっていた。

はこの季節が好きではない。
外の寒さも嫌なら、人工的に暖めた空間も居心地が良いとは言えない。

加え、そろそろやってくるのは、世の女性逹がピンクのオーラを放ち始める恋人イベント。
決った相手でも居れば、とてそれなりに楽しめるのに。

ハァとため息を一つついたの思考など知るよしもなく、同じテーブルで雑誌を捲っていた紅とアンコが顔を上げた。

「もうすぐバレンタインねぇ」
自他共に認める里一番の甘党は、楽しそうに瞳を輝かせる。
・・・・基本的に彼女は渡す側な筈なのだが。

はどうするの?」
「むぐぅ?」
アンコが膝に抱えていた団子を一つ拝借した所に紅に聞かれ、は団子を頬張ったままそちらを向いた。
「ガイにあげないの?」

「本命よ。本命チョコ。」




「・・・・ガイは、もうそういう対象に見られない、かな」




ぶっちゃけた話、私は半年ほど前にガイに告白され、丁重に断ったのだ。

当時上忍に昇格したての私は、自分の事でいっぱいいっぱいだったから。
ガイと自分の名誉の為に言わせてもらえば、決して彼の容姿に引いて断ったわけじゃない。


それは確かだけど


気付いた時に好きになってたのは、事もあろうにあのカカシだった。

此方も決して彼の容姿に惹かれたわけじゃない。
そりゃ、無駄に整ってるとは思うし、目の保養だとは思うけど。

なんとなく、
一番キツい時に話を聞いてくれたから・・・・だと思う。

慰めるでもなく、叱るでもなく。
ただ、話を聞いてくれた。

呆れた顔もせず、ただ聞いてくれて、ただ微笑んでくれた。

その時気がついてしまったんだ。

・・・・・・・・・私はカカシが好き


無自覚に頬が緩んでいたのかも知れない。

「じゃあ、この期に乗っかって告白しちゃいなよ。」
「気になるヤツがいない訳じゃないんでしょう?隠したってダメよ?」

アンコと紅が一段と楽しそうに聞いてきた。
・・・・・・全く、他人事だと思って。

「だって脈なしなんだよ?好き好んで玉砕したくないじゃん」
「脈がないなんて、どうしてわかるのよ?」
「だって言ってたんだもん。好きなら好きって言えばいいって。・・・・つまりソイツに脈あったら、向こうから言ってくれるってことでしょう?」

もう行かなきゃ、と逃げるように席を立った。

「そんなん、言ってみなきゃわかんないじゃん。」

背中に当たったアンコのセリフは、極力聞こえないふりをして。



困らせたくない
嫌われたくない

仮に付き合えたとすれば、それならいいかもしれない。

けど、頭に浮かんだアイツにそんな気有るわけないし


過去の話とはいえ、里全土を巻き込んでこっ恥ずかしいセリフを叫び抜いたある男。そのセリフを受けた女の想い人はその男の友人で、でもその友人は女を只の仲の良い同僚にしか思ってない訳で

ベクトルは誰にも向いていないから、三流映画の三角関係にもなりはしない。

男の友情の捉え方なんてわからないけど、女の私だったらやっぱり、告白したヒトが自分の友達に告白したりなんかしたら・・・・・どうしたって気まずい。

それに、なんだかんだで里の名物コンビで、私もガイとカカシがじゃれているのを見るのは好きだから。

だから私は、同僚に紛れて、一切の感情を悟らせない。

好きだけど。
好きだけど。
好きだけど。


「でも、せっかくのバレンタインなんだよね」


里中がバレンタイン仕様に装飾されたこの季節。
さっきまでの会話との思考も相まって、は雰囲気に呑みこまれたのだった。



結果、
バレンタイン当日には、配達屋よろしくチョコを配り歩くの姿があった。

「はい、カカシにも上げる。ビターのチョコ使ってるから、そんな甘くないし。」
「ん。どーも。」
のチョコを受け取って、チラと視線をそれに移すカカシだが、その包みはが未だ抱えているもの達となんら変わりはない。
「こんなに沢山・・・お前もよくやるねぇ」
「ん?まぁ、こういうイベントってノリだしね?・・・あ!ガイっ!」

カカシへの返答もそこそこに、はガイの姿を見とめ、呼びとめた。

「おお!っ!どうしたんだ?その菓子の山は」
「はぁ・・・・今日はバレンタインでしょう?はい、ガイにもあげる。」
「むむっ?友チョコと言うやつか?」

差し出された包みを見て、ガイは似つかわしくない単語を発した。
上忍師を務めるガイのこと、おそらくは部下の一人であるお団子髪の女の子の予備知識だろうが・・・・・

「なーんで、そんな言葉は知ってんのよ。気持ち悪い。コレは義理チョコって言うんだーよ」

カカシのやる気の無さそうな指摘に反応したのは・・・・・
言葉を訂正されたガイではなく、贈り主のの方だった。
「え〜、義理って言われちゃうとなぁ・・・・友チョコのが良いかも。うん!友チョコ決定!」
何がそんなにおかしいのか、はカラカラと満足気に笑った。



「うぉ!もうこんな時間かぁ!リーと修行の約束をしているのだ!」
ふいに時計を見て叫んだガイに、カカシはずっと手に持っていた包みを差し出した。
「ガイ、コレあげる。」

「えっ!?」
「何を言っとるんだ!」
「リー君と食べたらいいでしょ?」

どうせ、義理なんだし・・・・・

カカシのセリフのあとにそんな幻聴が聞こえてしまったは、驚愕を浮かべたままの表情を、あわてて笑顔にすり替える。

「あ〜、でも中のチョコにブランデー効かせてあるから・・・・食べるとき、注意して上げてね?リー君、お酒弱いんでしょう?」

ことさら明るく言うと、は寒空の下へと飛び出していった。

「じゃっ!」




「カカシっ!貴様っ!」
あっというまに見えなくなったの背中を見送ったガイは、ハッと我に返りカカシに詰め寄った。
しかしを傷つけた筈のカカシは、自分も傷ついた表情を浮かべていた。

「・・・・友チョコなんて要らないんだよ」

いきなり本命が欲しいなんて言わないけれど。
義理と友ではどちらが「男」としての距離は近いのか、とカカシは思う。


と、俯いてしまったカカシの胸ぐらを掴んで立たせたガイ。
「俺はな!のまっすぐ正直な所に惚れた!優しさに惚れた!不器用さに惚れた!」

その濃い顔を真剣な表情に変えて、ガイはカカシに詰め寄った。

「お前はどうなんだっ!」

「俺は」

言いかけたカカシの言葉を遮って、どこからか紅が姿を現した。
「どっちでもいいから、を追って。」
「早く行かんか!カカシ!」
「・・・ガイ、お前。」





「・・・・あ〜あ、友達もダメだったか」

一方のは、人気のない路を小石を蹴りつつ歩いていた。
カカシに本命は渡せない。
だけど、義理より友のほうが互いの距離が近いように思えたから、友チョコとしたのに・・・・・


っ!」
「きゃぁぁああっ。」
「ちょっ!叫ぶことないでしょーよ!」
「か、カカシ?」

里内で気を抜いていたこともあり、ふと、空を見上げたは、カカシの気配に気がつかなかった。
いきなり名を呼ばれたは大絶叫。そんなの様子に大慌てのカカシ。
そんなコントさながらのベタな寸劇を、里の上忍二人が演じてしまった。

刹那の重い沈黙の後。

「ゴメンっ!」
カカシは勢いよく頭を下げた。
「え・・・・」
のチョコ、ちゃんと貰ったよ。」

顔を上げたカカシは申し訳ない、というよりは困ったような顔をしていて・・・・・・
は慌てて言葉を捲し立てる。

「えっ!?いいよ、いいよっ!?カカシ、甘いの苦手でしょう?みんなにあげてるから、せっかくだから、あげただけで、だから」


「・・・本当に、受け取らなくていーの?」
「う、うん」


「じゃ、これと交ー換しよ?」



一度だけ頷いて自分のつま先を見つめるに、カカシの明るい声が降り注いだ。
そして視界に差し出されたのは、高級感漂うラッピングの箱。

「は?」
「ん〜、逆チョコって言うの?」
「はぁ?」
「ちなみにソレ、本命だから」
「はぁぁあっ!?」

驚いて顔を上げたが見たのは、いっそ晴れやかなカカシの笑顔。

数秒遅れて、の思考も正常に動き始めた。
やっと今、自分がカカシに告白されていることに気づく。

「じゃあなんで、今まで・・・」
から言って欲しかったんだ。」

無意識に呟いていたに、気まずそうに頬をかくカカシ。

つまり、互いが互いに惹かれあっていて。
つまり、互いが互いに行動してくれるのを待っていた、ということだ。

そうと分かると、色々気にして考え込んでいた自分が滑稽で、

「あは。以外に似てるのかもね?私達。」

は嬉しそうに笑いながら、カカシが差し出した包みを受け取った。




*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*・*

あとがき

はい。いかがだったでしょうか?
初!読み切りに挑戦いたしました。薄々感づいていたのですが、やはり短編苦手です。ぅぅ、話が纏まらない。

発端は、カウンターが3000hitを叩いたことでした。特にキリ番報告もリクもなく、寂しいな〜という思いから、じゃあ自分で企画しようかと思い立ったわけです。
(いつの間にか4000回っていましたが・・・・・・・・)
合わせて、我が家からリンクさせて頂いている素敵サイト様方へのお返しでもできればなぁ〜と・・・・ (合わせている時点でお返しが成り立っていない気も・・・・いや、愛と感謝は沢山込めましたが)

と、言い訳を並べましたが、このお話はフリー夢とさせていただきます。
もし、欲しいと言って下さる奇特な方がいらっしゃいましたら、どうぞお持ち帰りください。
報告は任意ですが、「仕方ないから貰ってやるぜ」←これをコピペしてメールか拍手で下さると嬉しいな〜なんて。

さて、お寒い日が続きますが、皆さまご体調にはくれぐれも気をつけて。 2010/02/14






フリー夢だということでしたので、にやつきながらわが雨音に連れて帰ってきましたv
仲よくしていただいている帝王紫さまのサイトマスターである紫苑さんが書かれたものです。
カカシ先生に逆チョコもらっちゃいましたよ!!!チョコ食わずして鼻血ですって(笑
あ、ワタクシが頂戴してきたものなのでここから持っていくなんてことは絶対にやめてくださいね!
欲しい気持ちは十分に理解できますけども、やっていいかどうかは別ですので
紫苑さんのステキな夢は当サイトのLINKより飛べますので。そちらから、ご本人さんに直接交渉なさってください。
いやー今回はかわいらしいカンジのお話でしたけど、紫苑さんの書かれる文って(長編の忍ヒロインの方)かっこよくて憧れます。
ワタクシにはひっくり返っても、あのようなシュッとしたカンジのものは出てきやしませんよ。
戦闘シーンとか・・ね、見習いたいもんです。マジで。
またひとつステキな夢のお陰で雨音が輝きました。紫苑さん、ありがとうございました!
・・・またぜひフリー配布を、なんてワタクシ物陰から狙ってますvv