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幸せっていう感情が 言葉で言い表せないのは こういうときのためにあるんだと柄にもなく思った。 目覚めのときに 「ん・・・・。」 忍というのは悲しいかな、どうしても少しの物音に反応してしまうように出来ている。 覚醒しないまでも、隣で発せられた愛しい人の寝言に 自然と周囲の気配を探り自動的にその瞼が少し持ち上がる。 そんなの確認しなくても目を閉じる前から分かっていた。 今は危険な状況から程遠い、ベッドの中。 隣には好きで、愛おしくてしかたがない恋人が眠っていることくらい。 今はその恋人は、小さく寝息を漏らしながらあっちを向いてしまっている。 。 その存在を起こさないように、後姿に向かって心の中で名前を呼んでみた。 さっきまでをイヤと言うほど己の身に感じていたのに、 もう触れたくて確かめたくて堪らなくなっている自分が、どうしようもなくて それでもほんの少し愛おしい。 それくらい、今の自分にはが必要ってことでしょ。 少しだけ、 髪の毛に触れるだけ。 起こしたいけど、まだ眠っていて欲しい。 矛盾し続ける心の中の葛藤に、結局はいつも腕をのばしてその髪に触れるのだけど。 「」 我慢できなくなって、窓の外が少しだけ明るくなってきたこの部屋でその名を小さく呼ぶ。 いつだってこんな風に名前を呼んでいいのは、自分だけなのだと 確認して、満足してようやく再び眠りにつく。 それが習慣というか、目が覚めてしまった時のくせみたいになっていた。 抱き寄せてしまう衝動は、とうに過ぎた。 出逢ったばかりの自分なら、きっとここで寝ぼけたふりでごまかして 腕をのばして自分の胸に抱き寄せてしまっていたのだろう。 急な衝撃に『・・・カカシさん?』なんて名前を呼びながら ま、いっか。ってまた眠りにつくを過去に何度も見た。 だいじょうぶ。 はオレのところにちゃんといる。 ふーっと息を吐きながらまじないかなんかみたいに、言い聞かせて やっとオレはおとずれる睡魔に、そのまま身をゆだねようと僅かに開いていた瞼を閉じようとした。 「・・・・・んー・・・。」 あっちを向いていたが、再び寝返りを打ってこちらを向いた。 あれ? それでも定まらないのか、まだごそごそと落ち着く位置を無意識に探している。 見えていた顔がどんどんと布団の中にもぐっていき、すりよってきたの身体をオレは抱きとめた。 しまいにはオレの胸にぴったりと寄り添う形で、どうやら落ち着いたらしい。 ・・・・・・・・。 小動物みたいなその動きに、オレは今なんとも言えない顔をしてると思う。 だってかわいすぎる。 くっちゃおうか? ねぇ、そんな無防備でさ。 きみが擦り寄った相手はオオカミなんだよって揺り起こして頭からつま先までぺろりと、 ・・・って、なーに考えてんだか。 よくない考えで頭がいっぱいのオレを、ふと見上げた視線が止めた。 「・・・・・カカシさー・・・ん。」 あれ、いつの間に起きたんだろ。 寝ぼけてる・・・・・よね? 「ん?どしたの。」 名前を呼ばれて、視線を合わせると胸の位置にいたはずのの顔が 急に目の前に来たかと思うとそれは一瞬で、くっついた唇がちゅっと かわいらしい音を立ててすぐに離れていった。 「・・・・・・・・。」 「えへへv」 髪も乱れた寝ぼけた顔で笑ったかと思うと はまたすぐにオレの腕にうずまって、すぅすぅとなにもなかったみたいに寝息を立て始めた。 あー ・・・・・・やばい。 これだから、困る。 は時々誰にもまねできないそれはそれは殺人級な技を、しかも無意識で放ってくる。 しかもこっちがなんの構えもしてない時に限ってだ。 なんなの、もう。 せんせー 「・・・幸せすぎて、死んじゃいそー・・・・オレ。」 苦しくない程度に、を抱きしめて さらさらしているその髪に顔をうずめてみれば 浮かぶのは、憎たらしいくらいに爽やかに笑うあいつによく似た金髪の師の顔。 まーったく、先生もとんでもない人よこしてくれたよねぇ。 鼻から息を吸えば胸いっぱいにひろがる愛しい気持ち。 すき あいしてる そんな言葉よりも、オレはこっちの方が断然いい。 「。」 もう今日は彼女が夢の中から目を覚ますことはなかったけど、 それでもオレは安心して再び眠った。 幸せってこういう気持ち。 名前を呼ぶって大事だなーと。 好きとか愛してるを乱発されるよりも、笑いながら名前を大切そうに呼ばれたら それだけですっごい愛されてるっていう気がしませんか。 いや、妄想ですけど。 |