薄暗いたそがれ時に、
あれは誰?だなんて聞かないで。

九月の露に濡れながら、月明かりをあびて



来ないあの人を待ってる私に。







たそがれ






その日くらいは任務がなければいいと思っていた。
口にはしなくても、お互いにそう思っていたと思う。

今週に入ってからは特に。







「あの・・・カカシさん?」



月日がめぐって、自分が生まれた日に戻る。



1つ歳をとること。



向こうでは当たり前だと思っていたことが、この世界ではこんなにも難しい。
もっと厳密に言えば、明日を迎えることすら遠い日だってある。

そんな日々を重ねているのが、



今、目の前にいる私の恋人だった。




「だーいじょうぶ、ちゃんと帰ってくるよ。」


心配。

一言では、そう。心配だった。
怖いともいう。


よりにもよって、こんな時にナルトくんたちとは別行動での忍者の任務だなんて。


それは、まだ未熟な若手のナルトくんたちには無理がある内容だということで。

どこかで聞いたことがあるような、御伽噺のような悲劇のヒロインじみた
そんなものに、私はなりたくない。


「どれくらいで帰ってくるんですか?」

「んー・・・誕生日までには帰ってくるよ。」


にお祝いしてもらわなきゃだしねぇ、と見つめる瞳は
優しくて、強い。


「ゆびきり、しましょう?」


その強い瞳にすがりたくて、

私の考えてることなんてバカバカしいって、軽く笑って欲しくて。



随分とこどもじみた事をした。



「ん、いーよ。」

差し出された小指に、己の小指をからませて


「「ゆーびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんのーます。ゆびきった」」


小さいころによくした約束をかわした。



「ふふふ、しましたねぇ〜〜?」

「・・・えーっと、サン?」


の表情が怪しい。



「嘘ついたら針千本、ちゃんと飲んでくださいよ。」



「ぅえええ?!!?ちょ、そんなぁー。これってホントに飲むヤツじゃないでしょ??」

「じゃあ破らなければいいんです。」

「・・・んー・・・?」



「最初っから破るつもりなら、約束なんてしないでくださいよ。ってことです。」


するりととけた互いの小指に、

泣きそうな声でそう言った彼女が逃げていくみたいだ、なんて。




、もっかい。」

「え?」

すらっとした小指が目の前にだされた。
私は、促されるままもう1度

今度は私のほうから指をからめる。


「ゆーびきーりげんまん、」

「・・・ぇ?う、うーそついたら」


絡ませた小指を強く引かれて、合わさった唇。




―ちゅ




「一緒に地獄におちてくれる?」






「・・・・・・・?!?」

「なーんてね。大丈夫、針を飲む気も、を地獄まで引っ張ってく気もこれっぽっちもなーいよ。」


「ま、大人しく待っててよ。ね?」



そう言って素顔でにこにこと笑いながら、ぽんぽんと頭を撫でられては
言い返す言葉もない。


「・・・・はーい///」

「じゃあ、いってきまーすv」

「いってらっしゃい。」

最後におでこにちゅっ、とキスをして出て行った。

うやむやにされたような気もしないでもなかったが、
確かにカカシさんは誕生日までには帰ってくると言った。



今はそれだけを信じて待っていよう。




大丈夫、


いつの間にか足元にいるムサシくんを見た。


?」


「1人じゃないしね。」


呟くように言った言葉は、俺にようやく届く程度で
にしたら独り言に近かったのかもしれない。


「え?あ、・・・あぁ。」


「さーぁてと、カカシさんの誕生日にあわせて色々準備しなくっちゃね!」








それからは、いつもと変わりのない毎日をおくっていた。


ちゃんと笑って、
普通に買い物をして、
普通に掃除してご飯をたべて、代わる代わる様子を見に来るヤツらと話をして

1つでもいつもと違うことをしたら


カカシが帰ってこないんじゃないかって、本気で思ってるみたいで。


それでも、家で俺とだけになった時は
さすがに不安そうな顔をみせた。

?」

「あー・・・・大丈夫、だよ?」


こりゃ相当きてるな。


しかし、その場はため息をついただけで
なにも言ってやることも、してやることもできないムサシだった。





「帰ってこないねぇ、カカシさん。」

一応いつ帰ってきてもいいように、
だけど期待しすぎてがっかりするのをどこか恐れるように、すみっこに重ねられた食器。

冷蔵庫には、仕上げの手が加えられるのを待っている食材たち。


俺との2人だけの空間に、
カチコチと、時計の針が進む音がやけに響いて聞こえた。



「別のものでも軽く胃に入れといた方がいいんじゃないのか。」


そう言うと、は渋々承諾したのかキッチンに向かって
すぐに戻ってきた。

それからもどこか言葉少なく、
窓際に座り込んでずっと月を見上げていた。


、そろそろ」

「もう少しだけ。」


俺の言葉を遮って、はそう言った。


曲げるつもりはない、と。



「もう少しだけ、・・・・待ってる。」



少し強く言いすぎたと思ったのか、
その場を誤魔化すように軽く笑って、の目線は大分傾いた月へと再び向かった。



「あのね、・・・どんなイベントごとよりも、誕生日ってやっぱり特別だと思うんだよ。」



「ん?・・・どうした」

「カカシさんて忍者だし。あんまりよくわからないけど」





「・・・・次の誕生日を向かえられない人が・・・・・この里にはたくさんいるんでしょう?」


の言葉を合図に、
窓に雨があたる音がした。


カカシは帰ってこない。

変わりに雨雲の隙間から見える月が、だんだんと白みをましていく。


「・・・?」

「ぅ・・・・ムサシくん。あー・・・・・あはは、ゴメン。」


隠すようにして、拭ったものは間違いなく涙だろう。

お前、こんな時に隠さなくてもいいだろうが。



「今さら俺に隠すな、バカ。」


トコトコと、近寄り鼻で頬をつつくと
ようやく上げた顔がくしゃりと歪んだ。




「泣くほどじゃないよね、ってわかってるんだけど。

 だけど・・・・ッ、ふ・・・こればっかりは、慣れないや。」



ムサシは涙をぬぐってやりながら、
感じるもどかしさに、自分自身戸惑っていた。



「カカシさんは、死に近すぎる。・・・・私知ってるの、


 慰霊碑の名前が、見るたび少しずつ増えてってる。」



次は知っている人の名前がそこに刻まれるのではないか。
それが、自分の大切な人なのではないか。

普段はどこか遠いことのようで平気でいられても、

こんな日のこんな夜はいくら強がったって、どうしても不安の波にのまれてしまう。


いまにも誰かが玄関の扉をたたくのではないか、と思ったら眠れなかった。
「すぐに木の葉病院へ」などと言われたら

その時の自分はちゃんと息をしていられるだろうか。


少なくとも今の自分に、
カカシさんを地獄の入り口まで迎えに行って、連れ戻す根性はないような気がした。



俺じゃこの涙はとめてやれない。


どうして、


俺はに笑ってほしいのに。
ひまわりみたいに笑う顔が好きなのに。



「・・・・雨にぬれたら台無しだぞ。・・・・・」

今のには届かない、言葉。



部屋の中でも、しとしととあふれた雫が俺にふりそそぐ。



抱きしめられながら、

俺はなにも言えずにそこにいた。


の気が落ち着くまで
ただじっと、そこにいた。





うるさいくらいだった雨の音が、
今は、静かになっていた。



「カカシはな、誕生日はいつも任務に行ってる。」

「え・・・?」

「アイツの親父が死んでからずっとだ。今回はそんなことないんだろうがいつも自分で入れてるみたいだ。

 多分、・・・自分が生まれた日がめでたいとは思ってないんだろ。」


「・・・・・そんな、・・・」


「けどな、アイツが出がけに言ってった言葉。覚えてるか?」

「私に、祝ってもらわなきゃ・・・・って。」



「だろう?」


月明かりを浴びてそう言うムサシくんは、
長年カカシさんと組んできた自信もあったんだと思う。


心からカカシさんを信じていた。


「アイツは絶対帰ってくるさ、他でもないお前が待ってる誕生日なんだから。」

「うんっ・・・・うん。」


ムサシくんの強い心に引っ張られて、
私の心は軽くなった。


信じていよう、

大丈夫って、笑っていられるくらい強くあろう。



「一人じゃなくてよかったよ。」

「なんのために俺がカカシの留守を預かってると思ってるんだ。」


「えへへへ、そーだよねぇ。」




「ありがとう。ムサシくん。」

「あぁ・・・・別に。」



下を向いていたひまわりが、

上を向いた。



俺もやれば出来るじゃないか。







それから明け方近くまで粘っていたが、泣きつかれて眠るのかたわらで
俺は主人の帰りを待っていた。


その姿が見える前にピクリと耳が動き、俺はその身をあげた。
カーテンの隙間から漏れる外の光がひどく眩しいから、どうやら雨はやんだらしい。



「おかえり。」

「・・・・ただーいま。」


ムサシの声のほうに視線をむけると、
自然とソファーに寄りかかるの姿も目に入った。



「ちょっと前まで、起きてたんだがな。」

「・・・・そう。」

口布をさげ、外した額あてをカカシはいつものように机には置かずに
そのまま片方の手の中で握り締めていた。

ムサシは遅かったな、とは決して言わない。


思ってはいるんだろうけど。


ムサシの無言の中の色んな気遣いを全部ムシして、
の元へとゆっくり向かった。

なんだかその距離がやけに遠く感じるのは、オレが後ろめたい気持ちを抱えている所為かなぁ。



「ごめん、・・・・15日終わっちゃったね。」



触れようとしたその手が血にまみれていることに気がつき

オレは、空を掴んだ。




一定のリズムで優しく刻まれるの寝息。
吐き出される柔らかそうな唇。

閉じられた目蓋の奥のまっすぐな瞳。


今のオレはどれにも触れる権利がなかった。


全部、欲しいのに。


のすべてが欲しいと思いながら、
誕生日のプレゼント程度では、そんなことは叶わない。

叶うはずがないでしょ。





自分がこの世に生まれ落ちたその日に




―――オレは誰かの命を奪っていたんだから。





急に目の前が暗くなる感覚が襲う。


オレはそれ以上の価値があるのか?

自分が生きることと引き換えに失われた命があることに、
今生きていることの意味が、全身から流れていくようだった。


「オレが生きるためには、誰かが死ななきゃいけないみたいね。」


ま、そいつらの人生を歩む気なんてまったくないんだけど。


「またお前、・・・・そういう事を。」

「ジョーダン。ね、泣いてた?」


を見つめたまま、
動こうとしないカカシに


「・・・・・・・教えん。」

「えーそれってキビシすぎない?」

「どうせ俺が言わなくても分かってるんだろう。ただ、」

「ん?」

「どうしても言いたいことがあるんだと、それでずっと待ってたみたいだぞお前のこと。」

「お誕生日オメデトウって?それなら別にわざわざ待ってなくてもいーのに。」

「って、俺も言ったんだがな。」

「ふーん。」


それっきり黙ったカカシは、
風呂場に消えるとまたすぐに戻ってきて、今度はためらわずにを横抱きにしてベッドへと消えていった。



眠るにすがるように抱きつくその姿は、
まるで捨てられることに怯える子どものようだった。


考えない、

考えない。



毎年この日に1度は思うこと。


オレは生まれてきてもよかったのか、なんて。







それからが目覚めたのはお昼を少しすぎたころだった。



「おーはよ。」

「・・・・・えーっと、夢?」

「くくくく、夢じゃあなーいよ。現実・・・・ホラね?」


ベッドから見える顔はそのままに、
頬には鈍い痛みがはしる。


「あ、ほんひょら。」

「ただーいま。」


掴んでいた手が離れる感覚と、
視界に移る顔がはっきりと笑ったのは同時だった。


あ、そういえば。



「お、おめでとうございます!!」


は咄嗟に身を起こし、
カカシの首元に勢いよく飛びついた。

突然のことに驚いたカカシであったが、
数秒遅れて腰に手を回す。


その表情は柔らかくて、泣いているようで。


残念ながら、からは見ることができないのだが。



「誕生日・・・・あ、・・・と、おかえりなさ」


最後まで言う前に、その口はカカシにふさがれてしまった。



がちゃんとカカシの顔を見たのは、
それからカカシがたっぷり時間をかけての唇を味わった後だった。
改めて向き合うと、今度は顔を見て「誕生日おめでとうございます。」と言ってくれた。



「おめでとうって、言ってくれるの?」

「え?だってそりゃ・・・カカシさんのお誕生日でしょう?1年に1度だけですよ、カカシさんが生まれた日は。」



「それって大事なこと?」



「カカシさん!!」


どこか自分に否定的なカカシさんに、
私は少しムカついて、その頬っぺたを思いっきりつねってやった。



「お誕生日、お・め・で・とーございます!!!」


カカシさんは、私がどんな思いで待っていたかなんて知らない。
そんなことは知らなくてもいい事だけど、

でも少しは当たったっていいよね?ムサシくん。



「・・・いひゃいよ、。」


目が合って、
それから2人同時にふきだした。


「あははは。カカシさんってば、変な顔〜〜。」

「えーさっきのはかわいかったよ?」

「なっ!!?そこは・・・・そうじゃないでしょう///」


強引だけど、
数十年前にオレが生まれた今日が、がめでたいっていうんなら

それはやっぱりめでたいことなのだ。




「ね、ね、。今日休みもらったからさ?

 1日ずれてるけど、オレん家はまだ9月15日ってことじゃダーメ?」



文句の1つでも言ってやろうかと思ってたけど、
嬉しそうに笑う、しまりのない顔をむけられては何も言えない。


「帰ってきてくれたから、・・・・それがいいです。
 今日はカカシさんの誕生日ですしね。」


「よかったー。もしかしてムサシと針、用意しちゃってるかと思った。」

「あははは、その手もありましたね。」


「そうだ、ムサシに聞いたんだけど。どうしてもいいたかったコトってなぁに?」


数回瞬きをしてから、

は思い出したように、とびっきりの笑顔で答えた。



「カカシさんに、生まれてきてくれて・・・・ありがとうって、言いたくて。」


「え?」


「えっと・・・・アナタが生きてる今が、すごく私嬉しいっていうか。・・・・その、

 ね、お墓参り行きましょう!あれ、こっちの場合慰霊碑か・・・?まぁどっちでもいいや。」







「とにかく!!ご両親にありがとう、って言いに行きましょう。」




勢いよくベッドから飛び出したが手をさし出した。

オレは迷わずその手を掴む。




他でもないがオレが生きるのを望むなら、
どれだけだって生きていけると思った。


1つ歳を重ねたオレは、
1年前とは違う。

大切な人が、となりにいてくれる限り


オレはこの世に生まれてきたことに、感謝できるんだろう。






誰そ彼と
われをな問いそ九月の

露に濡れつつ君待つわれそ









興味だけで受けた大学の教養の授業で、
万葉集のいくつかをピックアップしてあったうちの一句でした。


カカシ先生夢ー!!!!!!


と、心の中でたぎったのは言うまでもありませんがww
もう解説を聞けば聞くほどカカシ先生の誕生日夢やん、とか思ってなりませんでしたよ。
「時期は9月の15日前後くらいですねー」って言われちゃあーね。
モロですよ。他の句はいっさい覚えちゃいねぇww
この句の解説だけ必死にメモって、脳内でお話構築して満足しましたw

実際句の中の男は来ないんですけどね。
女は朝が来て男の気持ちが離れてしまったことを悟るんですが、残酷なことなさる。
でもそれはそれで、背景を考えたらせつなくて萌えますな。

結局ワタクシの書くカカシ先生はぐるぐるしている気がします。
根底ではどこか自分に否定的というか。後ろ向きというか。
そして定期的にくるヒロインの波。愛されるカカシ先生。みたいな。

おっとあとがき長々と失礼しました(汗

カカシ先生お誕生日おめでとうvvv
とことん間に合ってない上びっくりするくらい浮気してますが、心のそこから愛してますv