オイ、テメェ。

そこはオレサマだけが独占していい場所だッつーの。


ッつーか、オメー・・・・わかってやッてンだろ。







特等席のハズなのに







「・・・で、・・・」


例えばチョークを持つその指先。


・・・細ッせェーゆび。


ふと自分の手のひらに視線を落として、その違いを知る。




「・・・と、なります。」



耳に聞こえがいいその声。
オレには呪文のようで理解できない英語を発する唇。

今、腕を伸ばしたところで確実に届かない距離にいるその姿。


その、存在。





なァ、オマエにとってオレは大勢の中の1人か?





無意識のうちに伸ばしていた腕を、
は清春が手をあげたのだと勘違いして名を呼んだ。


「はい、清春くん。なにか質問かしら?」

「あァ?」


そんなつもりはなかったが、なったらなったでそれもイイ。
清春は口の端をニヤリと上げて、その場に立ち上がった。


「腹がイテェから、ちィっと保健室に行ッてきまァーす。クククッ。」

「え?あ、清春くん!ちょっと・・・」


の返事を聞かずに清春はそのまま教室を飛び出した。
すぐに後を追うわけにもいかず、翼に声をかけられるまで呆然と立ち尽くしていた


結局、清春の席は空席のまま

授業は再開した。



オレッサマは、アイツの授業受けンのが1日のうちでイッチバン嫌ェなんだよ。



その足は、保健室とは逆の方向へと進んで行った。







「はぁ・・・。」

1日の授業を終え、後は清春の補習を残すのみとなった放課後。



教室で待っていて向こうからくるような清春ではない。

追いかけて、イタズラにひっかかりながらも探し回ってやっとわずかな時間を確保する。



それが彼の担当になってからの私の役割だった。



バカサイユに着くと、今日はだいたいが出払っているらしく
今いるのは珍しく起きている瑞希くんと、その肩に乗るトゲーだけ。


「瑞希くんとトゲー、清春くん来てない?」

「・・・ここでは見て・・・ない。」
「くけくけー!」

「・・トゲーも見てないって・・・。」


「そっか。2人ともありがとう。」

迷ってる間に逃げられたかなぁ。

予想通りの言葉が返ってきて、次はどこを当たってみようかと踵を返した時。


「先生。・・・元気、ない・・・?」

「え?」


「トゲーっ!トゲトゲー?」
「・・うん。・・・トゲーも心配してる。」


「え、あー・・・そう見える?」


すでに扉へと踏み出していた足をくるりとこちらに向けて
振り返った先生の顔は、やっぱり困ったような少し落ち込んでいるような気がした。


そんな先生を、僕が放っておく訳がない。
ちょうど他のB6たちもいないことだし。


瑞希は無言でおいでおいでと手招きをし、ソファーの隣をぽんぽんと叩いた。


「私が?・・・瑞希くんの隣に座るの?」

「・・・うん。そう。」


清春を探さなければという考えが頭をよぎり、
少し迷った挙げ句・・・


結局、は瑞希の誘いに乗ることにした。



ちょこん、と遠慮がちに腰かけた彼女が年上に見えないくらいかわいくて。

自分よりはるかに小さな先生を抱き締めたい衝動を、必死に理性で押さえつけた。


でも、別にこれくらいならいいか。


「・・・イイ子、イイ子。」


なでなで、と自分の触れたい欲求を満たすように瑞希はゆっくりとの頭をなでた。


「わっ、ちょ・・・みみみ、瑞希くん?!あの・・・」


突然の行動に紅くなりながら、ますます小さくなる

頭上で瑞希は小さく笑った。


やっぱり、かわいい。

「・・・先生も、たまには息抜きしないと。」
「トゲーっ!」


「ほら、トゲーもそのほうがいいって言ってる。」

「うん・・・それもそうね。ありがとう。瑞希くん、トゲー。」

「くけー!」


嬉しそうに笑い、だけどすぐに少し寂しそうな表情になった先生。


「これでも補習はなんだかんだ言って随分受けてくれるようになったのよ?」



「やっぱり、清春の・・・こと?」

「うん。・・・ほら、今日も授業受けてくれなかったじゃない?って、瑞希くんは寝てたけど。」

「・・・僕が眠いのはいつものこと。それより清春が、先生の授業だけ受けないのはなにかある・・・と、思う。」


「だよねぇ?」


前までは、追うごとにイタズラが仕掛けてあってかわしても結局本人にはたどり着けなかった。
だけど、数ヶ月くらい前からはイタズラもあるけど
追いかけなくちゃいけないけれど、最終的には捕まってくれるようになった。


私が探せば待っていてくれた。


普段の授業態度に多少問題はあるけれど、椅子に座っている時間も増えた。
順調に事が進んでいると思っていたのに。


なのに、

最近の清春くんは、私の授業だけ受けてくれない。



初めからいないか、今日みたいに途中で飛び出して行くか。

それが彼なりの何かのメッセージのような気がして。



「私、清春くんに嫌われるような事したかなぁ・・・。あ、そりゃ毎日補習補習って追いかけ回してはいるんだけど。」



「補習はちゃんと受けてくれるし。授業の仕方に問題があったりして。・・・んー・・・」

がいくら考えてもその答えは見つからなかった。



清春がどうして最近先生の授業を受けたがらないのか。

一方で、瑞希の中で答えはとっくにでていた。



清春は気に入ったものは特別独占したがる。
だから、『みんなの先生』になる授業が嫌なんだ。

ただ見ているだけなのがもどかしいんだろう?



自分だけを映す先生が欲しいんでしょ、清春。

だから成績やイタズラ以外でこんなにも困らせて。



だけど、そう簡単にはいかないよ。
僕だって、先生を自分だけのものにしたいんだから。



「・・・・?!!??瑞希くん!!」


「・・・大丈夫。」

「大丈夫って、この状態のどこが?!」


今の今まで真剣に話をしていたハズが、
どこをどうすればこんなことになるのか。

「僕にしばらく膝を貸してくれれば・・・先生の悩みは、解決・・・・くーくー」



・・・・私が、瑞希くんに膝枕してるこの状態が??



「・・・・瑞希くんの事信じていいと思う?トゲー。」

困った私は、瑞希くんの髪の毛で遊んでいるトゲーに視線を落とす。


「くーけくけけ!」

「そっか、そうだよね。トゲーは瑞希くんの親友だもん信じてるよね。」


「じゃあ、私も信じる。」


瑞希くんは私の大事な生徒だもん。

それになんだか



瑞希くん、かわいいしね。




はそのまま膝の上で眠る瑞希の髪の毛をさらさらとときながら、
いつの間にか肩に移動したトゲーと遊んで、僅かな時間を楽しんでいた。


そろそろブチャもバカサイユを探し終わって出てった頃ダロ。


この時間ではまだ捕まってやらない。

そう思って、の捜索の手から逃れるために
バカサイユにやってきた清春の目に飛び込んできたのは。




「・・・・な、なンだァ?」



ブチャの膝で気持ちよさそうに眠るマダラの姿。



・・・・マーダーラァ〜〜テメェ・・・。



「ぅオイ!!!テメェーなに気持ちよさそうに寝てンだヨ!!起きろ、この!」

お、・・・重ェ。クッソ!!一体なに食ッたらンーなにデカクなれンだよ!!!


突然バカサイユの扉を、壊れそうなくらいに開け放って入ってきたかと思えば

膝の上に頭を乗せて眠る瑞希くんをはたいてその身をどかそうとしたその人物。



「ちょ、ちょっと清春くん?!」


「あぁン?ブチャには関係ねェだロ。」


まさにさっきまで探していた、の頭を悩ませる清春その人は
今日は自らやってきてその上なんだか少し怒っている。



そこはオレッサマが狙ってた場所だッてーの。

ッつーかァ、さっさと退きやがレ?



一向に目を覚まさない瑞希に焦れた清春は
ついに背中の水鉄砲を取り出し、その顔めがけて発射した。


「わっ、ちょっと!!清春くん!!」


結果、咄嗟にかばったがずぶぬれとなったため
瑞希はまだ起きない。

清春のイライラは解消されるどころか、ますますつのる一方だった。

その上、



「瑞希くんが風邪引いたらどうするの!」とか、

「トゲーは爬虫類だから自分で体温調節できないのよ!」


と、瑞希がそれ以上濡れないようにその身をどかして
立ち上がって力説するが、さらに気に食わなさを増幅させる。




ゴチャゴチャうッせーな。

その口、ふさいでやッかァ?



まだブチャがなにかごちゃごちゃと言ッてッケド、
ンなコト、もうどーだってイイ。


腕をつかんで、バカサイユの壁へとを押しつけて出れないようにしてやった。


「オマエさァ、・・・・」


「え?あの、清春く」

突然すぎる清春の行動が、にはますます理解できない。



「オレッサマだけのおもちゃだッて言ったよなァ?」



「き、清春くん?・・・あの、ちょっと顔が近いと思うんだけど。」


めったに聞くことのない囁くように響く低音が、

その身を駆け巡り、それ以上は危険だと焦りを告げる。




「るせェ。ブチャはだァーってろ。」


「な、」



―ちゅ




「・・・ンな簡単にオレ以外に触られてんじゃねェよ。バァーカ。」





先ほど唇に触れた感触に、ただただその場に固まる

「な、・・・・・なななな・・・」



そんな表情を見て満足そうに笑う清春。

「さァーて?次はどーんないたずらを女教師チャンに仕掛けてやッかなァ。キシシシ。」


いつだッてオレサマだけのことを考えていられるよーに、ナ。


「楽しみにしててもイーぜェ、このブチャイク子豚!」


その場は満足したのか、足取り軽くバカサイユを出て行く姿を
は呆然と見つめていた。



「・・・清春くんったら、なにをあんなに怒ってたのかしら・・・。」

なにもキスまでしなくてもいいのに。


「先生・・・・鈍い。・・・それも、計算の内だけど・・・。」

「トゲー!」


トゲーの声にハッとして、後ろを振り向いた。

「え?瑞希くん、起きたの?ねぇ、トゲー?」

「くー・・・くー・・・。」

「くけくけー」


一瞬瑞希くんの声がしたような気がしたけど、気のせいかしら?

・・・・さっきの清春くんとの事、見てないわよね。



「って、大変!!!濡れたまんまじゃ風邪引くわ。瑞希くん、起きて!」



咄嗟にかばったものの、やはりわずかながら被害を受けた瑞希に
は自分がそれ以上に濡れているのも忘れて
バカサイユにあるありったけのタオルを持ってきてあたふたと瑞希とトゲーを拭いていた。

そんな必死なを尻目に、1人瑞希は清春が出て行った扉を見つめて。




清春も、まだまだ・・・だね。

でも先生にキスしたのは僕、



絶対に許さないから。










はい、というワケで瑞希オチのような気もしないでもないキヨ夢でした。
ドラマCDの2人におもいがけず萌えたぎったので、その思いのままにw

やっぱB6っていい。